廃品利用シリーズ

以前作った 7984 シングルアンプだが、その後多極管ユニヴァーサル定電流アンプに作り替えたりしたが結局気に入らず解体してしまっていた。んで、そのシャーシやトランスを再利用してアンプをでっち上げようと考えた。

思いついたのは水平偏向管のg2ドライブで、パラビッチーニが EL519 でEnhanced Triode という名称で使っている。Svetlana の EL509 のデータシートにはその場合の特性も掲載されていて、Esg=10VくらいでIpが80mAくらい流れるようである。Ep-Ip 曲線を見ると送信管の三極管の特性によく似ている。だから Triode という言い方をしたりするんだろう。そこで、これでカソードチョークドライブを使ったらいい感じになるんじゃないかと思ったわけだ。尤も俺の思いつくようなことは誰でも思いつくわけで、15年くらい前のMJで似たようなアイディアを披露している人がいた。

とにかくシャーシに空いてる穴の関係やトランスの関係で制約があるが、その制約の中で考えた回路がこんな感じ。

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初段とカソードフォロワ段が 6AN8 なのは、シャーシに前段用の穴が二つしか開いてないので複合管を使わざるをえず、かつ五極部のゲインと三極部のプレート損失で要件を満たしそうなのが 6AN8 くらいしか思い当たらなかったからである。整流管の 6G-K17 はオーバースペックだが、これもシャーシの穴と電源トランスのタップの関係による。出力管はソヴィエト製の 6P45S を使用する。下手に当時の高価な球を使うより丈夫らしい。回路上の工夫としては、ドライバのカソードチョークに可変抵抗を直列にぶらさげて出力管のばらつきを吸収しようと考えたのだが、結果としては割合良く揃ったペアを入手できたようで抵抗値はほとんど同じになった。ただ当初想定していた Esg=11V だと電流が流れすぎるので、この可変抵抗でここの電圧を調整できたのはプラスであった。むしろ 6AN8 のばらつきが気になる。

完成したらこうなった。

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出力は THD=5% で 10W も出る。これは驚いた。利得は 23dB 位でやや低く、NFB を 8dB ほどかけて DF が約4。俺の作るアンプの例にもれず 50kHz くらいでピークが出るので、1300pF のマイカコンデンサ微分補正をかけている。とにかくプレート損失28Wくらいのシングルアンプで 10W というのはなかなか得難い。これで音がよければいうことはない。

音質についてはまだ調整の余地はあると思うが、低音が力強いのに驚く。同じ出力トランスを使って以前作ったアンプとはこの点でかなり違う。逆に相対的に高音が弱い気もするが、高音の出方というのは時間とともに変わってくるものでもあってしばらく様子見。

ともあれ、ありものを使って適当に作ったアンプだが望外によく出来た。割と単純な回路で結果がよく、安価な水平偏向管こそが適している形式なので、もっと流行ってもいいのではないか。