6528 SIPP

正月の工作として 6528 を使ったアンプを完成させた。

回路の特色としては、出力段を差動で動作させて位相反転まで受け持たせるというもの。こうすれば位相反転段を独立で設けなくても簡単な回路でプッシュプルが実現できる。Self Inverting Push-pull の略で SIPP という通称のようだ。日本では全段差動が標準化してるのでわざわざこんなアンプを作る人はあまりいないようだが、マイナス電源だのを使わなくて済むし、電圧増幅段の自由度も高いのはメリットではないかと。

回路はこんな感じ。

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初段は 7984 シングルで味を占めた五極・三極複合管による Active load、出力段が上述のように差動による SIPP。LM317 に単純計算で 3.6W くらい食わせることになるのでちょっと大きめの放熱器を付けたり、出力管もヒーターが 6.3V/ 5A と大きいのでアダプタを使って放熱に気をつけるなど、一応の熱対策は考えた。差動はチャンネルセパレーションのことをわざわざ考えなくていいので電源部も簡略化できる。初段だけは左右で分流してるが。

6528 の二つのユニットのばらつきを考えてバランサも装備したが、結果として Tung-Sol の 6528 は両ユニットがわりと揃っていて微調整程度で済んでいる。出力トランスとして採用した Amplimo のトロイダルトランスがアンバランスに弱いという話もあったので対策を考えたが杞憂だったようだ。

完成形はこんな感じ。

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写真には写ってないが、加工で失敗したところもあってあまりうまくいかなかった。ノグチの 2mm のシャーシはアルミが硬くて加工が大変だ。トロイダルコアの OPT はそのままでは格好悪いのでタカチの箱に入れた。部品点数は少ないのだが一つ一つ大きいものが多いのでそこそこ場所を食うため、余裕のあるシャーシサイズにしたが、熱のことを考えるとこれくらいで正解だったようだ。出力管は相当に熱くなるが、シャーシは触って暖かいと感じる程度に収まっている。

簡単に計測したところでは、出力が THD=5% で約 9W。純A級なのでこれくらいで仕方なかろう。利得は差動の悲しさで 4.5dB の NFB をかけると 23dB くらいになって、いつもより 3dB ほど小さくなる。DF はほぼ4。周波数特性は、下は 10Hz までほとんどフラットに出る。低内部抵抗の出力管と優秀な OPT の賜だな。上は裸では 100kHz までは余裕だが、50kHz 近辺にちょっとピークができたのでそれを補正したらフラットに出るのは 70kHz 位にとどまる。

音質については手前味噌になるから多くを語る気はないが、技術的興味を除けばアンプ作りはもうこれでいいかな、と思える水準ではある。聴感上の広帯域と透明感は今まで作ったアンプと比べて群を抜いている。歪率などの数字自体はそこまで良くないんだけど。