フォノイコライザ

基本的に俺が聴く音楽の7割位は70年代後半から近年のパンク、ポストパンク、ニューウエイブ、アルタナティブなどとくくられるジャンルであり、それから派生してサイケやノイズやプログレや現代音楽が混ざる感じで(アニソンのたぐいが音楽にカウントできるかはまた別問題)、正直オーディオ的にどうこういうものではないことがほとんどである。ただ、広い意味でのロックはやっぱりそれなりに大きな音で聴きたいものであり、ある程度の迫力を破綻せずに得ようと思うと一定の機械は必要になるというのが俺がオーディオに金や手間暇を投入している理由でもある。

という前提で、その手の音楽はアナログで聴いたほうが聴きたい音がする場合が多くて、手に入るなら音源はアナログがいい。俺のアナログシステムは、トーレンスの TD-318MKIII という、20年ほど前15万円くらいしたらしいターンテーブル(もちろん中古で買ったので安かった)に、ダイナベクターのMCカートリッジ、自作のフォノイコライザ(6BR7 という五極管を使った CR 型)という組み合わせであり、それでほとんど不満なく聴ける。ただ、最近自作のフォノイコライザの音が、もしかしたら変な音を勝手に気に入っているだけなのではないかという不安が出てきて、ちょっと感覚をリセットしてみようと市販のフォノイコライザを試してみることにした。高価なものは買えないので、安価なものの中でまあまあ評判がいいものを探していたら、Musical Fidelity の V-LPS という機種の中古を安く見つけたので買ってみた。おそらく並行輸入モノらしいがユニバーサルの AC アダプタが付いているので電圧の問題はない。この機種はサム・テリグが「これに勝ちたいなら最低1000ドルクラスのを持ってこい」と評価したもので、値段の割に音がいいらしいので試してみようと。

それで早速自作のフォノイコライザといくつかの条件で比較してみた。比較に使った音源は Lou Reed の Berlin Live である。まず V-LPS 単独の MC ポジションで聴いてみる。ハムノイズがかなり大きく、音もなんだか中心に固まっている感じで分離が悪い。サーフェスノイズが大きく感じられるのもマイナス。ただレンジは広く、低域の迫力も高域の伸びもかなりのものだ。

次に自作機でも使っている Webster の WSM-161 というマイクトランスを昇圧トランスとして、V-LPS の MM ポジションで聴いてみる。今度は特に低域が弱くなるが、内蔵 MC ヘッドアンプよりは全体のバランスが良くなって聴きやすいし、ハムノイズが劇的に減った。これなら十分に実用に耐える。

そして自作機に戻すと、ノイズは一つ前の組み合わせより少しだけ増えるが、低域の迫力が戻って、音場がぐっと大きくなる。日頃聴いている音で慣れているにしても、V-LPS より「いい音」であるし、ノイズも比較して大きいということはない。一番気になっていたのは、高域のレンジが狭いのをいいと感じているだけなのではないかという点だったのだが、V-LPS と比較して特に高域が出ていないようには聴こえなかったのでよしとする。というわけでつまらない結論になったが、自作機は安価な市販機よりは実力があると思えたので安心してこれを使い続けることにしよう。たぶんこれよりいいと感じられるものとなると、30万クラスの真空管を使ったものになるのだろうし、そんなものは全く現実的ではない。

というわけで「俺様天才!」という自画自賛記事になってしまったが、真空管とトランスには何らかのマジックがあるのだろう。楽器の再生や録音に用いられる機材にはいまでもトランスや真空管が乱立していることがちょくちょくあって、そんな過去の遺物をわざわざ使ってしかもテープで録音したりなんてことが珍しくないのだから、俺の感覚がひどく特殊であるということもないのだろう。特殊だったとして、俺が気持ちよければなんだっていいとは言えるんだけど、そういうことが気になるところが小心者の所以である。