部品の話

アンプを作るということは部品の集積を形成することであるから、当然様々な部品を必要に応じて購入することになる。球アンプの場合不可欠なのがソケットで、これが案外価格的にばかにならないのである。

MT9ピンや US8ピンなどのメジャーなものなら中国製の安いのから非常に高価なものまで多種多様だが、ロクタルやコンパクトロンだと一気に選択肢が減り、UT7ピンあたりはそろそろお手上げだ。

今作っているアンプに用いる出力管 GU50 と整流管 5Z9S/5C9S は旧ソヴィエト時代の無線機に使われたもので、GU50 はさらにドイツのウルツブルグ・レーダー用に開発された LS50 をルーツに持つが、これがまた特殊なソケットを必要とする。購入した際もソケットの方が球より高かった。民生用には当然生産していないから(中国製の互換球で FU50 というのがあって、それ用には安いソケットがいまでも作られていることは後から発見したが)軍用に作られたものの在庫が流通しているのを買うしかない。交換前提の消耗品である球とは違い生産量もずっと少ないのだろう。

しかしこのソケットが、さすがに戦車の無線機にも使われたらしいというだけはあって恐ろしく頑丈で、一旦球を差したらちっとやそっとでは抜けない。バスケット形状でがっちりとホールドする上にピンがきわめてタイトである。そりゃ赤軍の戦車兵の腕力ならなんてことはないかもしれないが、オレのような文弱の徒では赤くなったり青くなったりしてようやく引っこ抜けるという有様だ。

ソヴィエトの工業技術については多くを知らないが、少なくともしばらく使ってるうちにピンのバネがぽろっと外れてしまう現代の中国製 UX ソケットなどとはモノとしての格が違う。クリティカルな用途に使うというのはこういうことなのだろう。

オレのような貧乏人がアンプを作る際にはできるだけ安価に楽しむことが目的化してるところもあるけど、下手に部品をけちるとあとで却って面倒を背負い込むことになり、その辺の加減も難しい。ケミコン一つをとっても、耐圧に気をつけるとか、動作時の電圧が 400V を超えるような場合には傍熱整流管やガス整流管を使っていきなり高圧がかからないようにするとかの工夫が部品の品質と同時に必要になる。

ソケットにしてもそうで、安いからといってちゃちなものを使うと接触不良で球をお釈迦にしてしまって逆にコストがかかってしまうこともある。だからといってソケットのくせに5,000円もするようなのはごめんだ。ポテンショメータだって、オープン式の安価なものを使えばすぐガリが出るし、そんなのを例えばバイアス調整に使ってたらどうなるか考えるだけで恐ろしいが、じゃあ全部クラロスタットとかの巻線を使ってたらボリュームだけで万単位だ。そういう限られた条件の中でどう結果を出していくかが頭の使いどころでもある。

要するに、出所不明のケミコンとかオープンのボリュームを使ってるようなアンプの結合コンデンサだけジャンセンを使うとかってどうなんだろう、ということだ。エレキットに50年代の WE300B を差すなんてのと質的には同じ話で、物事バランスが必要だよね、ということで。