環境の話

今までも少し触れたことがあったが、オレの家は都心のチンケな一戸建てで、容積率や高さの規制が甘いのを最大限利用した所謂ペンシルハウスである。オレの部屋はその3階にある8畳弱の洋室で、そこに本棚やら洋服ダンスやら仕事机やらモノがごちゃごちゃ詰め込まれていて、その上オーディオ機器があるという有様だ。そもそも面積がないし、ものが多いからえらくデッドで、さらに安普請の太鼓作り洋室という、マニア諸兄からすれば吐き気がするような環境であろう。当然スピーカーの間にラックが鎮座することになり、スピーカーの周囲に空間も確保できない。片付けが根本的にできないからそこら中に本やら雑誌やらその他意味不明なものが散乱し、雑誌などに掲載されるオーディオルームは別の宇宙に存在するのではないかと思えるほどだ。

雑誌やオーディオ関連のサイトなどを見ていると、しばしばオーディオルームを確保するために郊外というか田舎へ引っ越して、立派な家を建てて楽しんでいる人たちがいる。確かにモノは通販で大抵買えるし、空気もよくて過ごしやすいだろう。考えてみればオレなんて職場は丹沢の麓であって、片道2時間近くかけて通勤してるのだから、職場の近くに家を買えばよかったかもしれないと思うこともある。ちょっと調べると、そのあたりならこの家を買った時の予算で大邸宅が買える。そして通勤は車で15分、休日は家庭菜園やハイキングなんていうライフスタイルが実現される。当然15畳や20畳のオーディオ専用室を確保することもさほど困難ではない。

翻ってなぜこんなところに住んでるかを考えると、要するに便利を金で買ったわけである。最寄り駅まで3分、新宿は徒歩圏、渋谷はバスで20分、六本木は地下鉄で15分。音楽を聴きたければオペラシティは歩いて行けるし、NHKホールもオーチャードホールサントリーホールも30分以内で行ける。子供の学校の選択肢は多いし趣味や習いごとだってやりたいと思うものはなんでもある。部品が足りなくなれば秋葉原だって30分少々だ。どっちを選ぶかということで便利を選んだのだから後悔はしていないが、時々もっと広い家でゆったり過ごすことを選ぶべきだったかという考えが頭をよぎることもあるのだ。理想を言えば便利なところでかつ広い家に住めれば一番だが、そんなのは一介の勤め人には無理な相談である。

考えてみればオレが50歳になったときに子供たちはすでに大学を卒業している年齢だ。その時あちこち遊びに出かけるエネルギーが無くなっていれば、職場の近くに転居することを考えてもいい。その頃にはもっと世の中が便利になって、都心から離れていることのデメリットも小さくなっていることだろう。それまでの間はここでちまちまと遊んでいよう。