6C-A10 シングルアンプ

考えてみればスクラッチでいちからアンプを作るのは1年ぶりである。

たまたま 6C-A10 を二本入手したので、これでシングルを作ることにした。6C-A10 といえば Lux が NEC に作らせたオーディオ用三極管で、元はといえばテレビ用のパルス安定用ビーム三極管のビームプレートを取っ払って作ったものだったはず(多極管を内部で三極管接続しているというのは誤解ではないか?)。内部抵抗が低い、gmが高い、バイアスが浅い、直線性も悪くないというさすがオーディオ用近代管という球だが、一方で規格通り30Wを食わせるのはまず無理、gmが高い球の宿命でもあるが暴走しやすいという欠点もある。そこで自己バイアスのぬるい動作で使うことにする。

手持ちの電源トランスがタンゴの PH-185 なので、280V をシリコン整流して360V くらいが取れて、様々な目減り分を考慮して出力管に回せるのは 310~320Vくらい。データシートとにらめっこして、Ep=280V、Ip=75mA くらいで 3.5k の負荷が適当であるように思われた。自己バイアスとはいえあまりグリッド抵抗を大きくしたくないのでこれを 82kΩとし、となるとドライバの動作は結構重くなるから、ドライバには内部抵抗の低い球に多めに電流を流して使うことにする。最終的な利得や見た目や色々考えた結果、初段とドライバには 6JZ8 を持ってきた。μ=20の三極管と 6BM8 クラスの五極管がセットになったコンパクトロン球である。この五極部を三結にしてドライバにする。などなどで出来た回路はこちら。

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電源トランスは上述のようにタンゴの PH-185、チョークも手持ちであったタンゴの 8H200mA のもの。OPT にはソフトンの RW-20 を選択し、2.7k のタップを使うと二次側が8Ωの場合負荷が3.6k になる。実際に作ってみたら設計上の電圧とほとんど一致して我ながらびっくり。ただ出力管のバイアスがちょっと深いので電流が少し増えたが、それでもプレート損失は22.5Wくらいなので問題はなかろう。6JZ8なんていう安価なテレビ球を適当に買ったのにどちらのユニットも二本きっちり揃っていたのは僥倖であった。一つトラブルとして、最初一方の 6C-A10 に電流が流れすぎるので悩んだが、ソケットの不良でグリッドが浮いているのだった。まったくもう。てなわけで完成形。

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正直塗装にはかなり失敗しているので間近で見るとあまりうまくない。ステッカーはあきばお~こくで買ってきた。

出力を計ろうと思ったら WaveSpctra の動作が思わしくないのでこれは後日に回すとして、周波数特性を見るといつもどおり 60kHz くらいにピークがあるので、負帰還抵抗に 1000pF のコンデンサかます。数値としてはこれでいいはずだが、実際にはもう少し大きいほうがよさそうだ。下は 30Hz くらいまではフラットに近い。利得は 4dB の負帰還をかけた上で22dB くらい。ヘッドフォンアンプとしても使いたいのであまり利得が大きくないほうが使いやすい。残留ノイズは 0.3mV くらいで、内部抵抗の低い出力管のシングルとしては優秀だろう。ヘッドフォンでもノイズは全く聞こえない。

音はさすがに出力管とOPTの素性がいいせいかなかなかである。弦やヴォーカルの帯域がきれいなので聴きやすい。納得の出来である。近いうちメインで大音量で鳴らしてみよう。