考えてみると

アナログの方がデジタルよりも音がいいというのは、突き詰めれば「電気炊飯器で炊いた飯より竃で炊いた飯の方が美味い」っていうことにつながるよな。CD がもたらしたのは利便性であって、それはオーディオ的には堕落なのかもしれないけど、音楽の本質はオーディオ的音質にあるわけではないから、利便性によってもたらされた利益を享受している人もたくさんいる。竃で炊いた飯は美味いけれど、ではその物凄い手間を誰が負担するのかという問題があって、誰かが美味い飯を食うために誰かが抑圧される社会構造はやはり妥当ではない。「美味しんぼ」に共感できないのはそこで、確かにできるだけ自然でかつ人手をたくさんかけた食い物が美味いのは当然なのだけど、それが安価に手に入るのであればそれは誰かが極端な労働と賃金の不均衡を負担しているわけだし、正当なコストを上乗せすればそれは特殊な人しか食べられないものになる。

マニアというのは自分の関心事以外にあまりに無頓着で、事物の本質を見誤る。音楽の本質は音質ではないし、食物の本質は美味ではない。自らの利益は誰かの不利益である可能性があるのであって、他者もまた自分と同様に利益を享受する権利があるということを忘れたら、そんなのは単に反社会的存在に過ぎない。

もっとも LP を楽しんで聴くことが反社会的であるはずもないけど、それでもマニアの中には「CD なんてのは全くダメなもので、アナログこそが眞理である」みたいなことを言う人がいて、ではその深遠なるアナログの世界を自分が享受できるのはなぜかという視点が欠落しちゃう。そんなことを言ったら、オレが中国やタイの製品で楽しんでいるのも、日本とタイや中国の経済格差の賜物であるから、オレが楽しむことはそういう国々の労働者人民を搾取し人間性を疎外してることになってしまう。ポジティブに考えるなら、そういう高付加価値な製品を生産し輸出することで雇用が創出され、人々を豊かにすることにつながるとも言えるけどね。

結局何が言いたかったのか分からなくなってしまった。