球の音

よく「KT88はこういう音」「EL34ならこういう音」などと言われるし、球ごとに一定の傾向があるのは確か。しかし結局支配的なのはアンプ全体の音なのであって、球はその一部を構成する要素に過ぎない。だからクズみたいなアンプの球だけ立派なものにしたって劇的に音がよくなるわけではない。第一、高価な球と工業製品としてできのいい球とうまく使えばいい音に貢献できる球とは全て違う (重なる場合もあるだろうけど)。刻印300Bなんてのが物凄い値段なのは、そもそも一般に市販されなかった球なので (WE のエンジニアが映画館にリースされてたアンプの球を定期的に挿し換えてたから) 市場にある球が極端に少ないことが大きいはずだ。オレも刻印300Bの球を使ったアンプの音は聴いたことがあるし、それはとてもいい音だったけれど、全体としてオレがいい音だと思ったその中で出力管が占める大きさがどれくらいなのかは正直よく分からない。

手元にあるアンプが、Dynaco にせよ Ella にせよ TU-879 にせよいろんな種類の球を使えるので散々挿し換えて遊んでいるけれど、球を換えたからといって別のアンプになるほど変わるわけではない。また、球とアンプの相性もあって (バイアスやプレート電圧の違いなんだろうけど) 例えば Ella に挿して素晴らしい 7581A は Dynaco ではいまいちだったり、Dynaco で素晴らしく鳴る Ei KT90 は TU-879 ではぱっとしない。ビンテージの球に至っては、新品状態で入手するのが困難だから、比較することもできない。手持ちで言えば、測定値では少なくともそこそこの水準にある RCA のブラックプレート 6L6GC は、MeiXing のドライバとしては 7581A に負ける (ノイズだけは RCA の方が低い)。でも負けると思ったのはオレの好みかもしれないし。

少なくとも言えることは、「このアンプは KT88 だから音が太い」みたいな言説にはほとんど情報量がないということだし、「中国の球はモラルの低い中国人労働者が作るので音が悪い」なんて民族差別的な物言いに至っては臍噛んで死んだ方がマシだということくらいである。