FL152 シングルアンプ

 さて、俺はこう見えてミーハーのブランド好きである。バブル世代だからしょうがない。もしジャンボ宝くじが当たったら、青山にスタジオマンション買ってポルシェに乗ってFMアコースティックのアンプでルーメンホワイトのスピーカーを鳴らす生活をしている自信がある。しかし現実はそううまくはいかないのであって、極めて限られた予算で己のブランド志向を満たす必要がある。

 たとえばサブでちょくちょく使っている KT8C という送信管のシングルアンプがあるが、これなどは出力管に GEC のシールが燦然と光り輝いており(参考)、なおかつ KT8C という球自体あの KT66 を UF ソケットにしてトッププレートにしたみたいな、ちょうど 6L6 と 807 の関係に当たるみたいなもので、要するに実質 GEC の KT66 である。なのにペア数千円で買えた。素晴らしい。

 で、このアンプで多極管ネイティブ動作シングルに可能性を見出し、次に目をつけたのが Telefunken である。Telefunken というとダイヤマークの ECC83 だの EL156 だのとなるととんでもない値段であり、俺のような貧乏人は指を咥えて見ている他ないのだが、Telefunken といえど人気のない球はいくらでもあるから、そういう中から使えそうなものを探せば安価にブランド趣味を満たせるわけである。そこで今回の FL152 という五極出力管の出番なのである(前置きが長い!)。

 この FL152 は、ヒーター電圧が 12.6V で、6.3V の EL152 という球もある。電極などの中身はウルツブルグレーダーでの使用で知られ、ソ連や中国で GU50 だの FU50 だのという名前でコピー球が大量に作られた LS50 と同じだそうである。実際定格などは全く同じ。俺も LS50 は持っており、最初は LS50 アンプを作ろうと考えていたのだが、持っている個体を眺めるといかにももののない時代に作られた御老体であり、常用してしばき倒すには忍びない。そこで中身は同じで見た目は近代管の FL152 を使うことにした。この球自体の見た目もかわいいしね。なぜ EL152 ではなく FL152 かというと、元ネタの LS50 のヒーター電圧が 12.6V なので敬意を表してのことである。

 しかしこの球、プレート損失が 40W もあるのはいいが、グリッド抵抗の制限が 25kΩ というひどい数字で、普通の CR 結合はまずムリである。なのでカソードフォロワ直結の固定バイアスを考えるが、今度は gm が低いので初段で相当の利得を稼がねばならない。なので初段に高gmのTV球であるところの 6BX6 を採用した。はじめは 6EJ7 を考えたのだが流石にピーキーに過ぎた。FL152 のデータシートを眺めて、スクリーン電圧は220Vくらいがいい感じかと見定めて考えた回路がこちら。

 持っている電源トランスの関係から倍電圧整流にするしかないのだが、それをダンパー管で行っているのは俺がバカだからである。これは思ったより遥かに電圧が取れず失敗だった。おかげで上掲の回路は当初の設計とは異なったものになった。またスクリーン電圧の安定化にスタビロを使っているのは俺がバカなのと見た目のインパクトが欲しかったのと簡単に電圧を変えられるからである。

 出力トランスは以前 300B シングルに使っていた一次側 3k のもので、でかくて重いので電流を多めに流してもインダクタンスが取れるだろうと期待してのものである。ドライバには手持ちの 6R-A6 を採用した。負荷が重めなのは電圧の関係と歪の相殺を狙ったからである。結果的には歪の打ち消しはあまり見られなかったが。したがって、出力管が Telefunken、初段と整流管が松下、ドライバとスタビロが東芝という日独同盟になった。が、シャーシをデザートイエローに塗ってパンツァー・フォー!みたいなことはせず、NATO 軍っぽいダークオリーブにした。完成形がこちら。

 B 電圧が低めなので出力はやや低くて THD=5% で 9W、16dB の NFB をかけたうえでの利得が 26dB。裸利得が想定よりも大きかった。この多めの負帰還のおかげか、10Hz までほぼフラットに出るし、上も70kHz くらいまではフラット。五極管ドライブの五極管シングルとしては優秀ではないか。

 音はもうちょっと癖のある音になるかと思いきや端正で透明な音でなかなかよろしい。しばらく常用して様子を見よう。